ChatGPTを使っていて、「この質問を答えているAIはどこにいるのか」と考える人はあまりいない。なんとなく「クラウドの向こう側」にいるような気がする。
ところが、そのクラウドにも住所がある。郊外や農村に建つ巨大なデータセンターだ。何千、何万というサーバーが並び、大量の電気を使い、施設によっては冷却のために水を使う。そして24時間、冷却装置や電気設備が動き続ける。
この記事で扱うのは、2025年末から2026年9月にかけてアメリカ各地で表面化したデータセンター問題だ。「AIを支える巨大な箱」を自分たちの町には建てないでほしいという動きが広がり、2026年夏には各地で抗議活動が起きた。しかも話は環境運動だけでは終わらない。反対していた住民が、とうとう地方選挙に出始めた。
AIは好きでも、近所にデータセンターはいらない
ペンシルベニア大学Annenberg Public Policy Centerが2026年夏に行った全米調査では、地元への新しいデータセンター建設に反対する人は61%。春の49%から、わずか数カ月で12ポイント増えている。
さらに妙なのは、AIを頻繁に使っている人でも、約60%が地元へのデータセンター建設に反対していることだ。つまり「AIそのものが嫌いだから反対」ではない。便利なAIは使いたい。しかし、その裏側の巨大施設を近所に置くとなると話は別らしい。
AI生成によるイメージ。実際の施設・現場・人物を再現したものではありません。
「クラウド」は、かなり電気を食う
もちろん、すべてのデータセンターがAI専用というわけではない。クラウドサービス、動画配信、企業システム、データ保存などにも使われている。ただし生成AIの急拡大が、新たな建設需要と電力需要を押し上げていることは米国政府も認めている。
米エネルギー省が2024年に公表したLawrence Berkeley National Laboratoryの報告によると、米国のデータセンターは2023年に約176TWhの電力を消費し、全米電力消費の約4.4%を占めた。2028年には6.7~12%まで増える可能性があるという。
そこで問題になるのが、「その施設へ電気を届けるための発電・送電・変電設備を誰が払うのか」だ。
テキサス州のGreg Abbott知事は2026年6月、データセンター向けに必要となる電力インフラ費用を一般家庭へ転嫁させず、データセンター側に負担させるよう州当局へ指示した。8月にはさらに、送電網への接続手続きを進めるデータセンターについて、電力、水、冷却方式、税制優遇、騒音対策などを調べる包括監査を命じている。
州の送電網を管理するERCOTには474GWを超える接続要求が寄せられており、州政府によればその約90%がデータセンター関連だった。この474GWはERCOTの過去最高のピーク電力需要の5倍を超える規模だ。もちろん、そのすべてが実際に建設・稼働するわけではない。それでも、州政府が「ちょっと待て」と言い出す規模にはなっている。
AI生成によるイメージ。実際の施設・現場・人物を再現したものではありません。
水を食う施設……と思ったら、話はそんなに単純ではない
データセンター反対でよく出てくるのが水問題だ。実際、水冷方式では大量の水を必要とする場合があり、テキサス州は2026年9月、義務付けられた水使用量調査を提出しないデータセンターに対し、法的措置も含めて取り締まりを進めるよう州水開発委員会へ命じた。
ところが、ここで話がややこしくなる。
アリゾナ州Maranaで計画されている約600エーカー(約243ヘクタール)のデータセンターは、町の公式説明によれば水冷ではなく空冷方式で、町の飲料水を冷却に使うことも禁止されている。
さらに2025年12月のPlanning Commissionと2026年1月のTown Councilで事業者側は、この約600エーカーでは農業利用で年間約2000 acre-feetの水が使われているのに対し、データセンター完成後に必要となる水は年間約40 acre-feetになると説明した。1 acre-footは約1230立方メートルなので、事業者試算では水使用量が約98%減ることになる。
これはあくまで事業者による計画値で、すべてのデータセンターに当てはまる話ではない。しかし「AI施設=必ず水を大量消費する」という単純な図式でもないことは分かる。
それでも町が揉めるのは、利益と負担の配分だから
では、なぜこれほど嫌われるのか。
理由は、水や電気だけではない。土地、騒音、景観、税制優遇、地元雇用、道路、そして「住民が知らないうちに巨大計画が進んでいた」という行政への不信まで混ざっている。
一方で、自治体にとってデータセンターは巨大な金庫にもなる。世界最大級のデータセンター集積地であるバージニア州Loudoun Countyでは、2026年度にデータセンターから約12億ドルの固定資産税等が入り、郡予算の39%を占めた。
雇用についても微妙だ。バージニア州議会の調査では、約25万平方フィート(約2.3万平方メートル)規模の典型的なデータセンターは完成後の常勤スタッフが約50人。一方、建設ピーク時には約1500人が働くとされる。
つまり巨大施設だから何千人も永久雇用する工場ではない。しかし、建設需要と税収は非常に大きい。町にとってデータセンターは「迷惑施設」であると同時に「巨大ATM」にもなり得る。ここが問題をややこしくしている。
住民運動が、とうとう選挙になった
2026年7月には、米国42州142カ所でデータセンター開発への抗議行動が行われた。各地の参加人数には差があるため「全米が蜂起した」とまでは言えないが、同じテーマの抗議が全国規模で組織されたこと自体は異例だ。
さらに地方政治では次の段階が見え始めた。カリフォルニア州Monterey Parkでは、住民運動を経て2026年6月の住民投票で市全域のデータセンター禁止が承認され、その運動に関わったSteven Kungが市議会選挙へ出馬。アリゾナ州Maranaでは、データセンター反対運動をしていたJackie McGuireが7月の町議会選挙で実際に議席を獲得している。
AI生成によるイメージ。実際の公聴会・施設・人物を再現したものではありません。
AIにも住所がある
この問題を単純な「AI企業対環境保護」の話にすると、たぶん本質を見失う。
住民の中にはAIを日常的に使う人もいる。水をほとんど冷却に使わない施設もある。自治体には巨額の税収が入る場合もある。それでも反対運動は起こる。
争われているのは、AIが良いか悪いかではない。AIを動かすための土地、水、電気、送電設備、税制優遇などの負担を誰が引き受け、利益を誰が受け取るのか。そして、その決定に地元住民がどこまで参加できるのかという問題だ。
「クラウド」という言葉は便利だ。何となく空中に存在しているように聞こえる。しかし現実のクラウドは、土地を買い、変電所を建て、ファンを回し、税金を払い、ときには近所から苦情を言われる。
AIにも、ちゃんと住所がある。アメリカでは、その住所をどこに置くのかを巡って、すでに町の選挙まで動き始めている。
【編集者が思うこと】
俺もAIを毎日のように使っている側なので、「データセンターなんか全部いらない」と言う気にはならない。結局、俺がAIを使った瞬間にも、どこかでサーバーが動いているわけだからね。
ただ、「クラウド」という言い方は、ちょっと都合が良すぎる気もしてきた。雲の中にあるんじゃない。どこかの町に巨大な建物として置かれて、その町の電気や土地やインフラとつながっている。しかも、場所によっては水食い施設でもなければ、自治体に巨額の税金まで落としている。だから善悪で簡単に切れない。
AIは欲しい。でも巨大施設は近所に来てほしくない。そこが妙なんだよな。スマホの画面では最先端技術なのに、裏側へ回ると「うちの町の水道と電気代をどうする」という、やたら生活臭い話になる。未来社会というのは、案外こういうところから揉め始めるのかもしれない。
参考資料
- U.S. Department of Energy「DOE Releases New Report Evaluating Increase in Electricity Demand from Data Centers」
- Annenberg Public Policy Center「Opposition to Local Data Centers Rises Sharply, Annenberg Survey Finds」
- Office of the Texas Governor「Governor Abbott Directs PUC And ERCOT To Shield Texans From Data Center Infrastructure Costs」
- Office of the Texas Governor「Governor Abbott Directs Comprehensive Data Center Audit」
- Office of the Texas Governor「Governor Abbott Directs TWDB To Penalize Data Center Reporting Failures」
- Town of Marana「Luckett Road North and South Data Centers」
- Town of Marana「January 6, 2026 Town Council Meeting」 ― 農業利用約2000 acre-feet、計画約40 acre-feetという事業者説明を収録
- Virginia Joint Legislative Audit and Review Commission「Data Centers in Virginia」
- Loudoun County「Data Centers: The Loudoun Story」 / 「Tax Revenues & County Budget」
- City of Monterey Park「Measure NDC – Proposition to Prohibit Data Centers in Monterey Park」
- Reuters「Data center opponents stage 142 protests across 42 US states」(2026年7月18日)
- The Guardian「They fought against datacenters. Now they are running for local offices」(2026年9月15日)