ラオスの「No coffee」カフェ――格安ツアーに潜む違法野生動物店

2026年9月17日、ラオス北部の観光都市ルアンパバーンで、政府機関による少々異様な会議が開かれた。問題になったのは土産物店である。

当局は野生動物製品の違法取引が疑われる15施設を対象に検査を行い、2店舗を閉鎖。外国人容疑者らを拘束したと発表した。さらに、一部の店が特定の外国人ツアー客だけを入店させていたとして、一般客にも開放させることや、いわゆる「ゼロ元ツアー」向け店舗の監視強化まで打ち出した。

ところが、この話をさかのぼると「カフェに行ったのにコーヒーを売ってもらえない」という、妙にB級な入口へたどり着く。

迷彩服の警備員が「No coffee」

2025年6月、環境ニュースサイトMongabayの記者が、ルアンパバーン郊外の観光名所クアンシー滝近くにある「Kin Liao Coffee」を訪れた。

入口には迷彩服姿で銃を持った警備員。そして記者に返ってきた言葉が、「No coffee, no coffee」だった。

ここは少し冷静に見ておきたい。Mongabayも、Kin Liao Coffeeが普段からコーヒーを一切出していないとまでは確認していない。記者が訪れた日に「コーヒーはない」と言われた、というのが確認できる事実である。

だが問題はその先だ。国際組織犯罪を調査するGI-TOCによると、この施設は中国人向けツアーの立ち寄り先として使われ、サイ角、象牙、熊胆などの野生動物製品が販売されていたとされる。領収書には「Kinliao Coffee」の名前が使われていたという。


ラオスの観光地にあるカフェ風施設と観光バス、警備員を描いたイメージ
AI生成によるイメージです。実在するKin Liao Coffeeや警備員、実際の現場を再現したものではありません。

カフェ、博物館、宝飾店――看板は何でもいい

2025年にMongabayとGI-TOCが行った調査では、ルアンパバーンと首都ビエンチャンで、こうした大規模店舗が少なくとも18か所、調査範囲によっては最大21か所確認された。

表向きは文化センター、博物館、宝飾店、カフェなど。しかし内部では象牙、サイ角、虎の部位、センザンコウ製品、熊由来製品などが扱われていたとされる。しかも普通の土産物屋とは違い、あらかじめ手配された中国語ツアー客だけを入れる店舗もあった。

さらに2026年7月、現地調査団体はルアンパバーン22か所、ビエンチャン13か所、最大35か所の疑わしい店舗を把握したとMongabayに報告している。ただしMongabay自身は新たに見つかった全店舗を独自確認したわけではないため、「35店舗が違法営業している」と断定する数字ではない。

重要なのは、裏路地にひっそり存在する密売店ではなく、観光バスが客を運び込む“大型観光施設”の姿をしていた点である。


団体旅行客が観光バスから指定された大型観光施設へ案内される様子を描いたイメージ
AI生成による解説イメージです。実在する旅行会社、店舗、旅行者を再現したものではありません。

安いツアー代は、どこかで回収される

背景にあるのが、中国などで問題になってきた「ゼロドルツアー」「ゼロ元ツアー」型のビジネスである。旅行代金を極端に安く見せて客を集め、現地の指定店へ連れて行き、買い物による収益でツアーを成立させる。

GI-TOCは、ラオスで確認された店舗について、ツアー会社が中国人旅行者を「文化体験」などの名目で店舗へ案内し、野生動物製品の販売から収益を得る仕組みが形成されていると分析している。

つまり旅行者から見れば、安くラオスへ来られたと思ったら、旅程の途中に巨大な“買い物ステージ”が組み込まれている。そこで高額商品を勧められるわけだ。

しかも2026年9月17日のラオス政府発表では、一部店舗について、外国人名義ではなくラオス人名義で会社を登録する手法や、WeChat Payなど国境を越えるデジタル決済を利用した取引も調査対象として挙げられた。単なる怪しい土産物屋というより、観光・決済・越境取引が一体化した仕組みとして当局も見始めている。

中国ラオス鉄道が客を運び、その横に商売が生まれた

ラオス旅行が好きな人なら、この数年で中国人観光客が急増した背景に中国ラオス鉄道があることは見逃せない。

中国・昆明方面からルアンパバーンやビエンチャンまでつながる国際旅客列車は2023年4月に運行を開始した。GI-TOCによれば、中国からラオスを訪れた旅行者は2022年の約4万5000人から、2024年には100万人を超えた。

もちろん、鉄道そのものが違法取引を作ったわけではない。鉄道はラオス観光にとって巨大なインフラであり、一般旅行者にとっても便利になった。しかし、人の流れが一気に増えれば、その流れを利用する商売も生まれる。

表側では「国際鉄道で世界遺産の街へ」。その観光ルートの横に、野生動物製品を売る別の観光ルートが形成された。ここが今回の一番妙なところである。


中国ラオス鉄道と観光バス、観光施設のつながりを描いた解説イメージ
AI生成による解説イメージです。実在する列車、駅、店舗、旅行会社を再現したものではなく、中国ラオス鉄道そのものが違法取引に関与していることを示すものではありません。

2026年、ついにラオス政府も本格的に動いた

状況は2026年に大きく動いた。9月11日、LAO-WEN(ラオス野生生物法執行ネットワーク)などがルアンパバーン市内の施設を捜索し、サイ角、加工された象牙、野生動物の胆嚢、野生動物由来成分を含む疑いのある伝統薬など計17点、28.03kgを押収した。外国人男性1人も捜査のため拘束された。

続く9月17日には前述の15施設への対応と2店舗閉鎖を公表。翌18日にはラオスの文化観光当局と農業環境当局が合同会議を開き、ゼロドルツアーがホテル、レストラン、土産物店などを通じて違法な野生動物取引を助長する可能性を公式に指摘した。

違反した旅行会社やガイドについては、営業許可の停止・取消や刑事手続きも視野に入れるとしている。

中国側も無関係ではない。中国駐ラオス大使館は2026年9月17日、中国人旅行者に対し「低価格ツアー」に注意するよう呼びかけ、センザンコウ、サイ角、象牙などを購入・持ち帰らないよう警告した。


ラオス当局が観光施設で野生動物製品と疑われる品を検査する様子を描いたイメージ
AI生成によるイメージです。2026年9月の実際の捜索現場、当局者、容疑者、押収品を再現したものではありません。

買う側も「客だから安心」では済まない

この仕組みが厄介なのは、中国人旅行者自身も強引な買い物ツアーの被害者になり得る一方、違法な野生動物製品を購入すれば「知らずに連れてこられた観光客」だけでは済まなくなる点だ。

東南アジア旅行では、「現地ツアーに含まれている店だから安全」「大型バスが来る施設だから政府公認だろう」と考えがちである。しかし今回のラオスの例は、店の大きさや看板、警備員、団体旅行への組み込みが、そのまま合法性を保証するわけではないことを示している。

カフェ、文化センター、宝飾店。名前だけを見て安心すると、その奥にまったく別の商品棚が待っていることもある。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★★☆☆☆
社会的深刻度
★★★★★

【編集者が思うこと】

ラオスへ行って、世界遺産を見て、クアンシー滝を見て、最後に「カフェです」と連れていかれたら、普通はコーヒーでも飲むと思う。それが入口で「No coffee」。で、その奥にサイ角や象牙があるという。昭和の怪しい海外団体旅行でも、なかなかここまでの展開はない。

ただ、俺が一番引っかかるのは「秘密の密売店」なのに、観光バスで客が堂々と運ばれていたところなんだよな。鉄道が悪いわけでも、中国人観光客全体が悪いわけでもない。便利な交通網ができ、大量の観光客が動き始めた。その横に、儲かる別ルートを作った人間がいたということだ。

「No coffee」だけなら笑える。でも、その奥にある仕組みは笑えない。表玄関は観光地、すぐ裏側には別の経済が動いている。まさに地球のB面だと思う。

参考資料