ドローン騒動から「5000ドル前払い」の殺人依頼疑惑へ 米フロリダの隣人トラブルはなぜ悪化したのか

近所で飛ぶドローンが気に入らない。車のスピードが気に入らない。そんな話なら、町内トラブルとしては珍しくない。

ところが米フロリダ州レイク郡では、近隣住民との揉め事を繰り返していた69歳の男が拘置所に入り、そこで別の収容者へ「近隣住民を殺してほしい」と持ちかけたとして、新たに逮捕された。捜査資料によれば、提示されたのは5000ドルの前払いだった。

しかも妙なのは、これが突然起きた話ではないことだ。半年ほど前から、小さな近隣トラブルが一段ずつ危険な方向へ進んでいた。


フロリダ州の近隣トラブルがダートバイク、ドローン、投石、拘置へ悪化する流れを示すAI生成イメージ
AI生成による事件構造のイメージです。実際の現場・人物・車両・施設や、車両の損傷箇所を再現したものではありません。

始まりはドローンではなかった

事件の中心人物は、フロリダ州クレルモントに住むDavid John Butka(69)。現地報道が引用する逮捕資料によれば、2026年3月、Butkaは住宅地を走っていた15歳の少年のダートバイクを巡ってトラブルになり、少年を押すなどしたうえ、ダートバイクを損傷させたとして逮捕された。

さらに7月22日、今度は近隣住民との間でドローン飛行を巡る継続的なトラブルが表面化する。住民側がドローンをスマートフォンで撮影していた際、Butkaが通過する車へ石を投げたと複数の目撃者が証言。車にはへこみや傷が残り、Butkaは加重暴行容疑で逮捕された。本人は投石を否定している。

つまり「ドローンを飛ばしたから殺人事件寸前になった」のではない。近隣住民との摩擦はすでに積み重なっており、ドローンはその途中に現れた一つの火種だったと見る方が実態に近い。

保釈されたのに、また拘置所へ戻った

Butkaはいったん5000ドルの保釈金を納めて釈放された。しかしレイク郡保安官当局は、その後Butkaが保釈条件に反して国外へ出ようとしたとしており、9月1日に再び拘置されたと現地で報じられている。

そして9月7日または8日ごろ、捜査側によれば、Butkaは拘置所内で別の収容者へ近隣住民の殺害を依頼した。標的とされた人物は、Butkaが関係した過去の事件で捜査に協力した証人でもあった。

話はかなり具体的だった。逮捕宣誓供述書では、Butkaは対象者の名前、身体的特徴、朝の行動、家の場所を特定するための情報などを伝え、銀行に約130万ドルあると話したうえで、「5000ドルを前払いする」と持ちかけたとされている。


拘置所内で5000ドル前払いの殺人依頼疑惑を示すAI生成イメージ
AI生成による解説イメージです。実際の拘置施設、人物、押収されたメモ、地図、クレジットカードを再現したものではありません。

妙に残った「紙と金」の痕跡

この話が単なる拘置所内の雑談で終わらなかったのは、捜査側が物的な裏付けになるとみているものが残ったためだ。

逮捕宣誓供述書を確認した現地報道によれば、Butkaは殺害を依頼されたとされる収容者の妻へ自分のクレジットカードを引き渡せるよう、施設で財産引渡しの手続きをしたとされる。その後、そのカードから300ドルが収容者の施設内口座へ入金された。また捜査側は、対象者宅の情報や「5000ドルをカードから前払い」という趣旨が書かれた手書きメモも入手したとしている。

9月16日、別の収容者から拘置所職員へ情報が伝わり、翌17日、Butkaは釈放される予定だったにもかかわらず、第一級殺人の実行を勧誘・依頼した罪(solicitation to commit first-degree murder)で新たに逮捕された。

釈放目前だった人物が、なぜその時点で証人の殺害を依頼する必要があったのか。ここは捜査側にもはっきりしていない。レイク郡保安官事務所の広報担当者は、怒りや復讐の可能性に言及しているが、確認された動機ではない。

本人は「殺人依頼ではない」と全面否定

もちろん、ここまでは捜査側の主張であり、有罪が確定したわけではない。

Butkaは捜査官に対し、殺害を頼んだことを否定している。金の話についても、別の収容者が新しい弁護士を雇う費用として2400ドルを自分のカードから使うことを認めただけだと説明。カードをその収容者の妻へ渡すことを許可した覚えもなく、自分が詐欺に遭っていると主張している。

したがって、5000ドルの殺害依頼が実際にあったかどうかは今後の司法手続きで争われる。ただ、捜査側は収容者の供述だけでなく、手書きメモ、カードの引き渡し記録、300ドルの入金など複数の材料を根拠としている。

「ドローンが違法だった」とも限らない

もう一つ、この事件を単純化しないために見ておきたいのがドローンである。フロリダ州法934.50は、撮影装置を備えたドローンを使い、合理的にプライバシーが期待される私有地や人物を、監視目的で無断撮影する行為などを規制している。

しかし今回、Butkaがこのドローン規制違反で訴追されたという事実は確認できない。7月の逮捕資料でも、ドローンを巡る問題は「継続中の民事上の問題」として登場している。

「迷惑なドローン男が逆ギレして殺し屋を雇った」とだけ書くと、この事件の肝を外す。一つひとつなら近所の揉め事にも見える問題が、少年との衝突、投石、保釈条件違反、再収監、そして殺人依頼疑惑へと、階段を上るように重くなっていったことの方が妙なのである。


近隣トラブルが殺人依頼疑惑まで悪化した経過を階段で示すAI生成イメージ
AI生成による事件経過の概念図です。実際の現場・人物・拘置施設・金銭の受け渡しを再現したものではありません。

頼んだだけでも、フロリダでは重罪になり得る

フロリダ州法777.04では、他人に犯罪を実行するよう命令、勧誘、雇用、依頼する行為そのものが「criminal solicitation」に当たり得る。つまり、相手が実際に殺人を実行しなくても犯罪が成立する可能性がある。

同州法782.04では計画的な第一級殺人はcapital felonyに分類される。さらに777.04では、capital felonyの実行を依頼した場合のcriminal solicitationは第一級重罪となり、775.082の一般規定では最高30年の拘禁刑があり得る。もちろん、Butkaに実際にどのような処分が下されるかは、有罪認定や量刑判断を含む今後の司法手続き次第である。

結局この事件は、ドローンそのものの事件というより、近隣との小さな摩擦を止められないまま、対立だけが肥大化していった事件として見る方が、その異様さがよく見える。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★★★☆☆
社会的深刻度
★★★★★

【編集者が思うこと】

近所付き合いって、嫌なら距離を取れば済む話も多いんだけど、なぜか「俺が正してやる」となった瞬間から面倒になるんだよな。ダートバイク、ドローン、車のスピード。どれも最初は殺人とは程遠い話だ。それが半年後には5000ドル前払いの殺人依頼疑惑である。一番怖いのはドローンでも石でもなく、「絶対に相手を許さない」という執着なのかもしれない。 日本のご近所トラブルでも、そこだけは妙に他人事に見えない。

参考資料