2026年9月7日夜、タイ・バンコク北部のラックシー地区。民家の前にある錦鯉の池へ、51歳の男が自転車でやって来た。
現地報道によると、防犯カメラには午後8時30分ごろに男が池の周囲を歩き、午後8時38分ごろには池へ入り、飼育されていた錦鯉を捕まえ、動物虐待が疑われる不適切な行為をする様子が記録されていたという。家政婦と飼い主に気付かれると男は自転車で逃走し、飼い主は追跡中に転倒して負傷した。
しかし、この事件で妙なのは行為そのものだけではない。防犯カメラが決定的な場面を撮影できたのは、その日の午後に起きた別の奇妙な出来事がきっかけだった。
その日の午後、なぜかカメラを池へ向け直していた
飼い主の証言によれば、防犯カメラ自体は以前から設置されていた。しかし特に事件もなかったため、普段はほとんど映像を確認していなかった。
ところが事件当日の9月7日午後3時ごろ、後に逮捕される男が池の近くへ不審な器具とみられる物を置いたという。家政婦が発見して処分したが、不審に思った家側はカメラの向きを池がよく映るように変更した。
そして、その約5時間後に男が再び現れた。つまり偶然カメラに映ったというより、男自身の昼間の不可解な行動がきっかけとなって、その夜の行動を記録するカメラが完成してしまったのである。

AI生成による解説イメージです。実際の住宅、人物、防犯カメラ映像を再現したものではありません。
以前から錦鯉が死んでいた。ただし犯人との関係は不明
さらに飼い主は、錦鯉を7~8年間飼育していたが、以前から一匹、二匹と死ぬことがあり、死んだ魚の体が曲がっていることもあったと話している。当初は魚同士の争いや、池の壁への衝突などを疑っていたという。
ここだけ読むと、「男が以前から侵入していたのでは」と考えたくなる。しかし、そこは分けておく必要がある。過去に死んだ錦鯉について、男の行為が死因だったとする獣医学的な確認や警察の認定は、確認できた報道にはない。
男は逮捕後、以前にも別の魚で同様の行為をしたと供述したと報じられているが、それがこの家の魚だったのかも分からない。「謎の死」と今回の事件は非常に気になる組み合わせではあるが、現時点では一本の線で結んではいけない。
「水浴びに来た」――3日後に男を逮捕
警察は自転車で逃げたことなどから近隣を捜索し、9月10日午後、現場から遠くないシアンコン・ラックシー周辺で男を発見した。男は警察を見ると逃げようとしたが、追跡されて逮捕された。
現地報道によれば、男は警察に対し、当初は「水浴びをするつもりだった」と説明。その後、泳いでいる錦鯉を見て衝動的に行為に及んだと認めたという。また、過去にも他の魚で似た行動をしたことや、以前に犬をめぐる事件で逮捕・服役したことがあるとも供述したとされる。
ただし後者については、今回確認した範囲では過去の事件記録を独立して裏付けられていない。したがって「本人がそう供述したと報じられている」以上には扱えない。

AI生成による解説イメージです。実際の容疑者、警察官、住宅街や逮捕現場を再現したものではありません。
魚なのに「動物虐待」になるのか
ここからが日本人には少し意外なところだ。タイには2014年制定の「動物虐待防止・動物福祉法」があり、法律上の「虐待」には、動物へ苦痛を与える行為だけでなく、動物を性的目的で利用することも含まれている。
同法の「動物」の定義は、家庭で飼われる動物、仕事用、乗用、伴侶、食用、展示用、その他の目的で飼育される動物などを広く対象としている。個人宅で長年飼育されていた錦鯉についても、「魚だから最初から対象外」とする定義にはなっていない。
正当な理由なく動物を虐待することを禁じる第20条に違反した場合、第31条では2年以下の禁錮・懲役相当、または4万バーツ以下の罰金、あるいはその両方が定められている。
日本だったら、実は法律の入口から違う
ここが地味に興味深い。日本の動物愛護管理法で虐待罪の対象となる「愛護動物」は、牛、馬、犬、猫などの指定動物に加え、人が占有する哺乳類・鳥類・爬虫類とされている。環境省もこの範囲を明示しており、魚類は第44条の「愛護動物」には含まれていない。
つまり同じ「他人が大切に飼っている錦鯉」でも、タイと日本では動物虐待法制の入口が同じではない。当然、日本でも他人の敷地への侵入や魚を傷つける行為が無罪になるわけではなく、器物損壊など別の問題は生じ得る。しかし、少なくとも動物虐待法の保護対象という点では、タイ法は日本の第44条より広い定義を採っている。

AI生成による法制度比較のイメージです。実際の法令書面や政府機関の資料を再現したものではありません。
珍事件だが、警察が調べているのは意外に普通の犯罪だ
現地報道では、警察は動物虐待だけでなく、器物損壊、わいせつ行為、夜間の住居・敷地侵入などに当たる可能性も調べているとされる。
特にタイ刑法では、夜間の住居侵入など一定の要件を満たす侵入罪は、最高5年の禁錮・懲役相当または10万バーツの罰金となり得る。魚をめぐる奇妙さに目を奪われるが、法律の側から見ると「他人の家へ夜に入り込んだ」という部分も軽くない。
なお、2026年9月25日時点で、今回確認できた信頼できる報道では、最終的にどの罪名で起訴されたのかまでは確認できていない。したがって現段階では、これらは警察が検討している容疑として見るのが妥当だ。
【編集者が思うこと】
最初は「またタイで、とんでもない事件が出てきたな」と思った。でも調べてみると、俺が引っかかったのはむしろ法律の方だった。日本だと犬や猫ならすぐ「動物虐待」という話になるのに、魚になると法律上の扱いが変わる。一方タイでは、飼われている錦鯉も広く保護対象として読める。事件そのものはどう考えても妙なんだけど、「魚一匹を法律がどう見るのか」で国の違いまで見えてくる。こういうところが、海外のB級事件を掘る面白さなんだよな。
参考資料
- タイ畜産開発局/官報「動物虐待防止・動物福祉法 B.E.2557(2014年)」
- タイ司法省 Office of Justice Affairs「財産犯罪・不法侵入に関するタイ刑法362~365条」
- Khaosod「51歳男を逮捕した事件報道」(2026年9月10日)
- Khaosod English「Man arrested after allegedly sexually abusing koi fish in Bangkok」(2026年9月11日)
- Manager Online「トゥンソーンホーン警察による逮捕・捜査内容の報道」(2026年9月10日)
- 環境省「虐待や遺棄の禁止―愛護動物の範囲」