UFOまで自然保護局へ? ニュージーランドDOCに妙な相談が集まる理由

UFOが山に落ちた。玄関に黒猫がいる。ポッサムの糞を何とかしてほしい。さらには「人間とチンパンジーのMMAが計画されている」と心配する連絡まで――。

これらが持ち込まれた先は、警察でも動物病院でもテレビ局でもない。ニュージーランドのDepartment of Conservation(DOC/自然保護局)だった。

DOCが2026年9月14日に公表したところによると、2026年8月31日までの1年間に、カスタマーサービス部門が受けた電話は42,637件、メールは22,394件。そのうち2,977件は、DOCの仕事とは関係のない問い合わせだった。

業務外だった電話は全体の約7%であり、もちろん4万件超の電話すべてが珍相談だったわけではない。それでも、国民は、この役所をいったい何屋だと思っているのか。そうツッコミたくなるが、調べてみると話はそれほど単純ではなかった。

ニュージーランドの行政コールセンターに猫やポッサム、アザラシ、UFOなどの相談が寄せられる様子を描いたイメージAI生成による解説イメージ。実際のDOC施設・職員・現場を再現したものではありません。

「UFOが山に落ちたのでDOCへ」は、本当に変なのか

今回紹介された中でも強烈なのが、「UFOが空からTararua Rangeへ落ちるのを見たので、DOCへ知らせるべきだ」と主張した人物だ。

UFOの担当官が自然保護局にいるとは考えにくい。しかしTararua Rangeには、DOCが管理するTararua Forest Parkがある。DOCの発表では、その物体が実際に公園内へ落ちたと確認されたわけでも、通報者が見た具体的な地点が公表されたわけでもない。それでも、「山に正体不明の物体が落ちたので、その周辺の自然地域を管理する役所へ知らせよう」という発想だったとすれば、完全な珍行動とも言い切れない。

人間とチンパンジーのMMAについても注意が必要だ。DOCの公式発表が確認しているのは、あくまで「そのような試合が計画されていることを心配する連絡が来た」という事実であり、実際にそんな試合が開催される予定だったとDOCが認定したわけではない。

妙なのは問い合わせ内容だが、問い合わせた人の頭の中には、それなりの経路があった可能性もある。

猫ひとつでも、DOC案件かどうか簡単には決まらない

「玄関に黒猫がいる」という電話だけなら、さすがに自然保護局の仕事ではなさそうだ。一方、公共の保護区を歩いていた茶トラ猫を心配した子どもからのメールもあった。

ニュージーランドでは猫を大きく、飼い猫、野良猫、完全に野生化したferal catに分けて考える。DOCは公共の保全地域にいる野生化猫を管理する法的役割を持つが、一般の飼い猫や野良猫の管理はDOCの担当外だ。

ポッサムも同様である。ニュージーランドでは在来生態系を脅かす代表的な外来害獣で、DOCは公共の保全地域で害獣対策を行っている。しかし自宅の敷地にポッサムが出たからといって、DOCが駆除業者として駆けつけるわけではない。

ニュージーランドの住宅地と自然保護区の境界を猫とポッサムが行き来する様子を描いたイメージAI生成による解説イメージ。実在する特定地域や実際の動物個体を再現したものではありません。

アザラシは正しい。でも「アザラシ病院」はない

今回の1年間の集計では、DOCにはアザラシについて2,000件を超える問い合わせがあった。こちらは保護対象の海洋哺乳類なので、DOCへ連絡すること自体は正しい。

ところが、「砂まみれで乾いている」「何の魚を食べさせればいいのか」「DOCにはアザラシのリハビリ施設があるのではないか」といった相談も寄せられるという。

DOCの基本方針は意外にも“hands off”――むやみに手を出さないである。危険な場所にいたり、重傷だったりしない限り、人間が助けようとせず距離を取る。

ここでは「どこへ電話するか」は正解なのに、「電話したら役所が何をしてくれるのか」がズレている。これも今回の珍問い合わせを理解する重要なポイントだ。

そもそもDOCの仕事が広すぎる

DOCを日本語で「自然保護局」と聞くと、小さな自然保護専門部署のように感じる。しかし実際には、ニュージーランド国土のおよそ3分の1にあたる公共保全地域を扱い、国立公園、野生生物、外来害獣、登山道、キャンプ場、歴史的資産、海洋哺乳類、土地利用許可などまで関わる大きな組織だ。

日本の一つの省庁にそのまま対応させるのは難しく、日本人が「自然保護」という名前だけから想像するより担当範囲はかなり広い。

さらに管轄は、市民から見ればかなり分かりにくい。DOCにはAucklandのWaitākere Rangesについて問い合わせが来るが、基本的な管理主体はAuckland Councilである。ところが同地域のWhatipūには、土地はDOC所有なのにAuckland CouncilがDOCに代わって管理する場所まで存在する。

山を歩いている一般人に「ここから先は別の役所です」と常に理解しろと言う方が、むしろ無理がある。

49本の電話番号を一本化したら、珍相談も一本化された

ここからが、この話のもう一つのB面である。

DOCは2019年から問い合わせ窓口の集約を試し、2023年5月までに全国展開した。さらに2024年2月には全国共通の「0800 ASK DOC」を導入。それまで存在していた49本の個別電話回線を順次廃止する方針を取った。

つまりDOC自身が、「どこの部署か分からなければ、とりあえずここへ」という入口を作ったのである。

2024年9月には新しい顧客関係管理システム(CRM)も導入され、問い合わせ内容を記録し、よく質問される情報を公式サイトで見つけやすくするためにも利用している。

変な電話が一か所に集まっているのは、窓口の失敗ではなく、むしろ一元化が機能した結果とも考えられる。

複数の問い合わせを一つの行政窓口で受け付け、担当先へ振り分けるコールセンターの仕組みを描いたイメージAI生成による解説イメージ。DOCの実在施設・職員・システム構成を再現したものではありません。

国民は「現象」で考え、役所は「管轄」で考える

猫がいる。山に何か落ちた。アザラシが寝ている。ポッサムがいる。

市民は目の前で起きた「現象」から問い合わせ先を考える。一方、行政側は「どこの土地か」「どの動物か」「野生か飼育個体か」「誰が管理している場所か」という「管轄」で判断する。

この二つが一致しない場所が、行政の問い合わせ窓口なのだろう。

忙しい日には、営業時間内の7人のCustomer Services Teamが200件を超える電話に対応するという。UFOまで混じることを考えれば、必要なのは自然科学の知識だけではなさそうだ。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★★★★★
社会的深刻度
☆☆☆☆

【編集者が思うこと】

最初は完全に「ニュージーランド人、自然保護局を何屋だと思ってるんだよ」という話だと思った。でも調べたら、ちょっと印象が変わった。

国土の3分の1を管理して、動物から山、キャンプ場、害獣まで扱っていて、そのうえ「電話番号を一本にします。分からなければここへどうぞ」とやったら、そりゃUFOまで飛び込んでくる。

俺が妙だと思うのはそこなんだよな。窓口を分かりやすくすると、問い合わせの中身は逆にカオスになる。でも、そのカオスを受け止めて正しい場所へ回すのも行政サービスなのだろう。UFOを見つけた人まで、とりあえず役所へ電話できる社会。笑えるようで、意外とちゃんと機能している話なのかもしれない。

参考資料