救急車まで入れない――バンコク洪水、医療チームが高床GMCへ“乗り継いだ”理由

2026年9月下旬、激しい大雨に見舞われたタイ・バンコク。各地で乗用車が冠水し、「またバンコクが沈んだ」と言いたくなる光景が広がった。

ところが今回、もっと厄介なことが起きていた。助けに行く側の車まで、冠水地域の奥へ入れなくなったのである。

バンコク都(BMA)が保有する大型6輪車でも対応できない場所が生じ、救急車にも車両トラブルが発生。ついには医師や救急スタッフが、途中で高床式のGMC車へ乗り換えて患者らのもとへ向かうという、妙な「救急車の乗り継ぎ」が始まった。

「6輪なら行ける」が通用しない水深

9月28日、バンコクのタウィダー・カモンウェート副知事は、洪水被災地域への支援で大きな問題になったものの一つが車両によるアクセスだったと説明している。

BMAの公共事業部門には、冠水地域で物資や人員を運ぶための6輪車が約70台ある。しかし、これは「70台全部が壊れた」という意味ではない。約70台ある車両群のうち、深い水に阻まれて一部地域では使用できなくなったというのが、The Activeが伝えた副知事の説明である。

ここは報道によって表現が食い違っている。THE STANDARDは同じ会見について「70台超の6輪車と救急車7台が高い冠水でエンジン停止」と要約している一方、The Activeは「約70台を保有しているが、一部地域では使えなかった」と報じている。本記事では、数字を必要以上に膨らませないため後者の慎重な表現を採用した。


深い冠水道路で一般車と6輪作業車が進めず、高床救助車が奥へ向かう解説イメージ
AI生成による解説イメージ。一般車・通常型6輪車・高床救助車の違いを概念的に示したもので、実際の現場・車両配置・人物を再現したものではありません。

実際、BMAが集約した9月27日朝の道路冠水情報では、バンカピ区のナワミン通りやセリタイ通りの一部で最大約1.3mの冠水が記録されている。乗用車が無理なのは当然として、通常の大型作業車でも簡単に進入できる水深ではない。

ここで重要なのは、「6輪車=洪水に強い車」ではないことだ。最低地上高、吸気口の位置、駆動方式、電装、防水能力などは車両によって違う。車輪が二つ多ければ水も遠慮してくれる、という話ではない。

救急車約7台にもトラブル、医師だけ先へ行く

さらに厄介だったのが救急車である。タウィダー副知事によれば、BMAのエラワン救急医療部門では、冠水地域へ入った救急車約7台に問題が発生したという。

すべての車両について故障原因まで公表されているわけではないため、「7台すべてがエンジンを水没させて壊れた」と断定するのは避けたい。ただ、救急車がそのまま患者のいる場所まで到達できない地域が実際に発生した。

そこで投入されたのが、軍や防災関連機関などから支援された高床式GMC車だった。


冠水地域の入口で救急車から高床救助車へ乗り換える医療スタッフの解説イメージ
AI生成による解説イメージ。BMAが説明した医療スタッフの車両乗り継ぎを概念化したもので、実際の人物・車両・地点を再現したものではありません。

運用方法はなかなかすごい。救急車で進めるところまで行き、そこで医師やスタッフがGMCへ乗り換える。高床車で冠水した住宅地の奥へ入り、患者らを外へ運び、再び救急車が利用できる地点で引き継ぐ。

つまり、一台の救急車だけでは救急搬送が完結しなくなった。

鉄道なら「ここから先は代行バスです」で済むが、これは病人や寝たきりの住民を運ぶ救急医療である。災害時とはいえ、かなり切迫した状況だったことが分かる。

高床GMCが必要になった「救急のラストワンマイル」

ここで重要なのは、単に「もっと大きなトラックを持ってくればよかった」という話ではない。The ActiveやMatichonは、通常の6輪車では進入できない場所に対応するため、BMAがより車高の高いGMC系車両を必要としていたと伝えている。

初日には約10台が投入され、その後は軍や防災関連機関などから追加支援を受けた。それでも9月28日の時点では、BMAはさらに約15台の高床車を必要としていた。

これは洪水対策を考えるうえでも興味深い。排水ポンプや堤防だけ整備しても、住宅地の内部まで救急車が入れなければ、人を助ける「救急のラストワンマイル」が切れる。


救急車から高床救助車へ中継して冠水住宅地へ向かう救助ルートの概念図
AI生成による概念図。救急搬送の中継構造を説明するための架空の配置であり、実在する地図・搬送経路・現場を再現したものではありません。

今回の洪水では、まさにそこが露出した。水没したのは車だけではない。都市の救助ルートそのものが、水深によって分断されたのである。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★★☆☆☆
社会的深刻度
★★★★☆

【編集者が思うこと】

タイで洪水というと、「また道路が川になってるな」で済ませたくなるんだけど、救急車まで途中で止めて高床車に乗り換えるとなると話が違う。

俺が妙だと思うのは、ここなんだよな。タイは洪水が珍しい国じゃない。それなのに、いざ本当に深い水が来ると、普通の救助用6輪車だけでは足りなくなって、軍用タイプに近い高床車を外部から集めることになる。

もちろん、想定以上の豪雨なら日本でも同じ問題は起きる。ただ、「トラックを用意しました」で終わらず、その車がどの程度の冠水まで実際に運用できるのかまで考えておかないと、非常時にはただの大きな置物になる。

バンコクの洪水って、道路が水没している映像だけ見ていると毎年恒例の風景に見えてしまう。でも今回のB面はそこじゃない。助ける側まで水に止められた。ここまで来ると、さすがに「いつもの洪水」で片付けてはいけないと思う。

参考資料