ペルー警官、交通違反者に「カエル跳び」――切符の代わりの“ranas”はなぜ起きる?

交通違反で警察に止められた。普通なら、その先に待っているのは交通違反切符だろう。

ところがペルー南部の観光都市クスコでは、運転手が路上でしゃがみ込み、何度も身体を上下させていた。監督しているのは警察官。筋力トレーニングの指導ではない。交通違反の切符を切る代わりに、「ranas」と呼ばれる運動をさせていたと報じられたのである。

ペルーのテレビ局ATVが2026年10月1日に報じた映像では、警官が運転手に対し、要旨として「運動をさせたから切符を切られずに済んだだろ」と話している。運転手が理由を問い返すと、今度は「運動しろ。身体を温めれば寒くない」と促していた。

「ranas」は、ただのスクワットではない

ATVはranasを「sentadillas=スクワット」と説明しているが、ペルーで使われる意味は少し違う。言語学者マルタ・ヒルデブラントが紹介した『Diccionario de peruanismos』の定義では、しゃがんだ姿勢で連続して跳び、通常は両手を首の後ろに置く運動を指す。

日本語なら「カエル跳び」あるいは「スクワットジャンプ」に近い。名前のranaも、そのままスペイン語で「カエル」である。

そして興味深いのは、ranasが単なる筋トレではなく、ペルーで「お仕置きとしてやらされる運動」として以前から登場していることだ。ペルーの教育行政資料でも、遅刻した生徒にranasや腕立て伏せをさせる行為が、身体的な懲罰の例として挙げられている。

クスコ風の市街地でranasと呼ばれる運動をする運転手と交通警察官のイメージAI生成によるイメージです。実際の現場・警察官・運転手を再現したものではありません。

問題は「運動」より、警官が勝手に罰を作ったこと

ペルーでは交通違反の切符をpapeletaと呼ぶ。PNP(ペルー国家警察)は交通違反に対する罰金を科す権限を持ち、違反内容に応じて処理する仕組みになっている。

PNPの公式案内では、papeletaは交通違反に対する金銭的な制裁として説明されており、運動をその代替処分とする手続きは示されていない。 2026年4月には運輸通信省(MTC)も交通取締りをより統一するため、警官の道路上での行動について明確な基準を設ける「交通取締りプロトコル」を盛り込む制度改正を発表している。

クスコ警察のトップを務めるPNPのVirgilio Velásquez Hurtado将官も今回、警察官には守るべき規則と手続きがあるとして調査を表明。「職権乱用なのか」と問われても即断はせず、事実関係を確認するとした。

2026年10月5日時点で、問題の警官の氏名、運転手が具体的に何の違反をしたのか、ranasを何回行ったのか、最終的な懲戒処分は確認できていない。 また、ATVの記事は10月1日付だが、出来事そのものの発生日は明記されていない。

交通違反切符とranasによる即興の運動罰を対比したイメージAI生成による解説イメージです。実在する警察書式・現場・人物を再現したものではありません。

しかも「カエル跳び警官」は今回が初めてではない

ここで単なる一警官の奇行では済まなくなる。

2021年、ペルー中部のワンカヨでは、反対車線にはみ出して追い越した運転手に警官が200回のranasと50回の腕立て伏せを命じた。しかも運動を終えたあと、正式なpapeletaまで発行されている。つまり「運動か切符か」ではなく、まさかの運動+切符だった。

2019年のリマでも、パンアメリカン競技大会の専用レーンへ入ったオートバイ運転者らがranasをさせられる動画が拡散した。さらに2025年5月にはアレキパで、交通違反をしたとされる運転手に警官が運動をさせる映像が問題となり、地域警察トップが調査を表明。「正しい手続きは違反を確認してpapeletaを発行すること」と説明している。

つまり「違反者にはその場で運動させて反省させる」という発想は、少なくとも複数の地域・複数の年代で繰り返し現れている。

ペルー各地で報じられたranasによる運動罰の類似事例を示す概念図AI生成による概念図です。地点は記事中の事例を視覚化したもので、厳密な位置関係を示す地図ではありません。

人情味のある警官か、それとも危ない裁量か

動画だけを見ると、「罰金を取らず、運動だけで許してくれるなんて良い警官じゃないか」と感じる人もいるだろう。実際、過去の同種事件では警官を称賛する反応も報じられている。

しかし、この話のB面はそこにある。

罰金を見逃して腕立て10回、今日はranas20回、次の警官は別の「お仕置き」。それを許せば、法律で決まった処分が、警官個人の気分や価値観で交換可能になってしまう。

金銭を要求したわけでも、深刻な暴力事件でもない。だからこそ妙に牧歌的に見える。しかし、交通警察官が「今日はこれで勘弁してやる」と独自の罰を作ることと、正式な行政手続きを行うことは別物である。

そして2026年5月8日にもLatina Noticiasが、クスコで運転手がranasをさせられ警察が内部調査を始めたと報じている。10月のATV報道と同じ映像なのか別件なのかは、公開情報だけでは確認できない。だが、「クスコで警官とranas」という構図まで重なっていること自体、単なる新着珍ニュースとして処理するには少々引っかかる。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★★★★☆
社会的深刻度
★★☆☆☆

【編集者が思うこと】

これ、絵だけ見ればかなり好きなんだよな。違反切符の代わりに道路でカエル跳び。昭和の体育教師みたいな警官で、「まあ次から気をつけろ」で終わるなら、罰金より人間味があるようにも見える。

でも、そこが妙なんだよな。俺が引っかかるのは、「優しい警官だからいいじゃん」で済ませていいのかというところ。警官が勝手に罰を軽くできるなら、逆に勝手に重くすることもできる。今日はカエル跳びで済んでも、明日は何になるんだ、という話になる。

しかも調べたら、ペルーでは過去にも何度もranasが出てくる。珍事件を一本拾ったつもりが、奥から妙な「お仕置き文化」が顔を出してきた。こういう、表のニュースより調べた後のほうが変なものが出てくる事件こそ、『地球のB面』向きだと思う。

参考資料