道路は川、スカイウォークは寝床に。バンコク洪水で生まれた「二階の街」

2026年9月27日、タイ・バンコク東部のバーンカピ。Happy Land交差点周辺では道路が深く冠水し、車やバスが水の中で動けなくなっていた。

ところが、その頭上では別の光景が広がっていた。住民が衣類や貴重品を袋に詰め、スカイウォークへ避難し、そのまま夜を明かしていたのである。道路は川になり、歩行者用の高架通路が臨時の寝床になった。

店から退避し、家族とスカイウォークへ

現地紙Thairathが27日に報じたところでは、Happy Land周辺では腰ほどまで水が上がった場所があり、多数の車両が立ち往生した。40歳の飲食店主Mongkol Phosoi氏は、店の商品を高い場所へ移していたが、水位が予想以上の速さで上昇。家族と衣類や貴重品を持ち、店の向かいにあるBang Kapiのスカイウォークへ退避した。

これは単なる「雨宿り」ではない。本人を含む4人がそこで生活し、26日夜は家族と高架上で一夜を過ごしたという。店に残したバイク2台も水没した可能性があり、本人はさらに2~3日滞在する可能性を話していた。


バンコク洪水で水没した道路とスカイウォークへ避難する住民を表現したAI生成イメージ
AI生成によるイメージであり、実際の現場・人物・施設を再現したものではありません。

下は水没、上だけが使える街になった

スカイウォークは本来、道路を安全に横断・移動するための都市設備である。それがこの数日間だけ、通路から避難場所、さらに生活場所へ役割を変えた。

この異様さは、単に「タイでは洪水が多い」で片付けると見えにくい。バーンカピ周辺では車道が使えなくなる一方、高架構造物だけは水面より上に残った。結果として、人間の生活が地上から一段上へ押し上げられたのである。

道路=交通路、歩道=徒歩、住宅=生活場所という平時の役割が、洪水によって丸ごと組み替えられた。これが今回の光景のB面である。

「またいつもの雨」と思ったところから始まった

Mongkol氏の証言で気になるのは、当初「いつもの雨だろう」と考えていた点だ。バンコクでは短時間の冠水自体は珍しくなく、「しばらく待てば引く」という経験則がある。

しかし今回は違った。9月24~26日にかけてバンコクでは大量の雨が続き、約48時間の累積雨量が300mm近くに達した。主要な排水先となるKhlong Saen Saep(センセープ運河)なども危険な水位となり、雨水を街の外へ逃がしにくい状態になった。

バンコク都の排水部門も以前から、豪雨時にセンセープ運河の水位が上がると、バーンカピ周辺から運河への排水が進みにくくなることを課題として挙げている。今回だけ突然現れた弱点ではない。

27日朝、バンコク都の道路冠水情報では、バーンカピ区のSeri Thai Roadの一部で約1.3mの冠水により交通が閉鎖されていた。つまり「排水が少し遅れた」程度ではない。


バンコク東部で運河水位の上昇により排水しにくくなる構造を示したAI生成の概念イメージ
AI生成による概念イメージです。実際の地形・排水施設・土木構造を正確に再現した図ではありません。

すぐ近くのクローンチャンでは、4,000世帯超が孤立

Happy Landと混同してはいけないが、近隣のKhlong Chan(クローンチャン)住宅団地ではさらに深刻だった。Thai PBS系メディアThe Activeによると、約30棟、4,000世帯以上が影響を受け、水深は1mを超える場所もあった。一部では停電・断水が発生し、5号棟では住民が屋上の貯水タンクから水をくみ、炊飯や高齢者・子どものために使う状況になった。

28日の報道では、住民が自分たちで炊き出しや物資の融通を始める一方、体系的な調整拠点を求める声も出ていた。少なくとも一部の棟では、行政支援が十分に届く前に住民同士の自助が先行していたことが報じられている。

一方で、バーンカピ区やバンコク都、住宅当局、災害対応機関、民間財団なども排水作業や物資支援、避難対応を実施している。したがって、「行政が何もしなかった」という話ではなく、災害の規模と地域の排水条件に対して、支援や排水が追いつかない場所が生まれたと見る方が正確だ。

「またいつもの冠水」が通用しなかった夜

Mongkol氏が「いつもの雨だろう」と考えていたように、少なくとも一部の住民には、それまでの経験から「今回もしばらくすれば引くだろう」という判断があったことがうかがえる。

ただし、行政側まで同じように考えていたと断定できる資料は確認できない。確認できるのは、バンコク都自身が約300mmに迫る累積雨量と主要運河の高水位によって、排水が極めて難しくなったと説明していることである。経験則が通じない量の水が、一気に都市へ入った。

水没した車の上を、スカイウォークで避難生活する人々が見下ろす。この光景だけでも、今回のバンコク洪水が普通の「道路冠水」とは違ったことが分かる。


夜のスカイウォークで休む洪水避難者と水没した道路を表現したAI生成イメージ
AI生成によるイメージであり、実際の被災者・現場・報道写真を再現したものではありません。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★☆☆☆☆
社会的深刻度
★★★★★

【編集者が思うこと】

タイを見ていると、「なんとかなる」「そのうち何とかする」という柔らかさに救われることもあれば、「そこ、もうちょっと先に考えておけばいいんじゃないの?」と思うこともある。でも今回ばかりは、それだけで片付ける話じゃないんだよな。

俺が妙だと思うのは、近代的なショッピングモールも高架鉄道もスカイウォークもある大都市なのに、豪雨が数日続いた途端、少なくともこの家族にとって安全な場所が「道路より一段高い歩道」になったこと。最新の都市設備が、最後にはものすごく原始的な「高いところへ逃げろ」に使われている。

しかもスカイウォークがあったから助かった面もある。だからこれは「タイはダメだ」で終わる話でもない。便利な街ほど、普段とは違う使われ方を始めた瞬間に、その街の弱点と強みが同時に見えてくる。下が全部水なら、上で寝る。理屈としては正しい。でもバンコクの大都市圏で実際にそれが起きている光景を見ると、やっぱり「そこまで行っちゃったか」と思う。

参考資料