スペイン「トンネルに入らない列車」の真相――実は1編成も完成していなかった

2023年1月24日、スペイン北部アストゥリアスの地元紙が、新型狭軌列車の設計問題を報じた。2月に入ると、「新しく注文した列車が大きすぎて、トンネルに入らない」というニュースがスペイン国外にも広がった。

舞台はスペイン北部、アストゥリアス州やカンタブリア州を走る旧FEVE系の狭軌鉄道網。RenfeがCAFへ発注した新型車について、トンネルなどの構造物と車体寸法が合わない問題が発覚した。

これだけ聞くと、「31編成も作ってから気づいたのか」と思う。ところが実際は違う。問題は製造開始前の設計段階でCAFが発見しており、問題の寸法で製造された列車は1編成もなかった。

「トンネルに入らない31編成」は作られていなかった

Renfeは2019年に新しい狭軌車両の調達を始め、2020年6月、スペインの鉄道メーカーCAFへ契約を発注した。契約全体は31編成のメーターゲージ車両、山岳線向けの6編成、さらにこれら車両の15年間の保守を含むものだった。

ところが2021年初頭、設計を進めていたCAFが異変に気づく。発注仕様で前提とされていた「ガバリ」と、実際の鉄道施設が合っていなかったのである。

日本の鉄道ファン向けに言えば、ここで問題になったのは軌間そのものではない。線路幅は1,000mmのメーターゲージで分かっている。問題は、車体がトンネル、ホーム、橋梁などに触れずに走れる空間、つまり車両限界と建築限界に相当するガバリだった。

狭軌鉄道の車両とトンネルのガバリを説明するイメージAI生成による解説イメージ。実在の車両・トンネルや正確な寸法を再現した技術図ではありません。

古い鉄道に「正しい規格」を当てたら別の問題が出た

旧FEVE系の路線には、長い歴史の中で造られた狭いトンネルや構造物が残っている。現代の標準的なガバリを、そのまま全線に当てはめられない場所が存在していた。

では規則どおり、安全側へ小さな車両を造ればよいのか。そう単純でもなかった。スペイン運輸省によれば、当時の規則を実際のインフラへ適用すると、現在その路線を走っている列車より、かなり小さな新型車になってしまうという問題が出た。

新車なのに客室を狭くして輸送力や快適性を落とす。それでは何のための車両更新なのか分からない。逆にトンネル側を大量に改修すれば、時間も費用もかかる。

つまりこの騒動、単純な「車両メーカーが寸法を間違えた」という話ではない。近代化された設計規則と、古い狭軌鉄道の実物がきれいに噛み合っていなかったことまで表面化したのである。

古い狭軌鉄道インフラと現代の車両設計を対比したイメージAI生成による解説イメージ。特定の実在路線・トンネル・技術者を再現したものではありません。

解決方法は「今走れている列車を物差しにする」

最終的に採用されたのが「método comparativo(比較法)」だった。

考え方はなかなか現実的である。すでに何年もその路線を問題なく走っている既存車両を基準にして、その走行実績や車体断面、インフラとの関係を調べ、新型車が同じように安全に走れるよう設計する。

要するに「紙の上の標準寸法だけではなく、実際にトンネルを通れている列車を物差しにする」という方法だ。

この考え方自体は欧州規格に存在していたが、当時のスペインでは今回のケースに使うための扱いが明確ではなかった。2023年2月、政府は鉄道ガバリに関する規則を改め、既存の1,000mm軌間路線でこうした比較による設計を明確に利用できるようにした。

列車の設計問題として始まったニュースが、最後には国の鉄道規則の側まで動かしたのである。

既存車両を基準に新型車を設計する比較法の概念イメージAI生成による比較法の概念イメージ。実車の形状・実測値を示す正式な技術図ではありません。

しかも31編成から38編成へ増えた

普通なら、これだけ騒ぎになれば発注数を減らしたくなりそうだ。しかし実際には逆だった。

2023年2月、スペイン政府は契約のオプションを使い、7編成を追加して合計38編成へ増やす方針を決定した。さらに遅延への対応として、アストゥリアス州とカンタブリア州では、新型車が届くまでCercanías(近郊鉄道)の無料化を延長する方針も打ち出された。

設計問題を起こした計画が、最終的には発注増。いかにもB面である。ただし、問題発覚時に完成車を廃棄したわけではないため、「何百億円分もの列車を作り直した」という理解も正確ではない。

ちなみに2020年当時に示された2億5,800万ユーロという金額は、問題の31編成だけを製造する金額ではない。Renfeの資料では、31編成の狭軌車、6編成の山岳線向け車両、さらに15年間の保守を含む契約全体の金額だった。

2026年、ようやく次の試験段階へ

比較法による設計を経て、2024年2月26日、CAFのベアサイン工場で新型車の製造が正式に始まった。当時は2026年前半に鉄道網での試験へ入る予定だったが、工程はさらに後ろへずれた。

そして2026年8月、最初の完成車がCAFの専用試験施設で走行試験を開始。続く2026年9月16日、スペイン運輸相Óscar Puenteは、カンタブリア向け新型車について「順調なら10月から線路上での試験を始める」との見通しを示した。

つまり2026年9月20日現在、世界で「トンネルに入らない列車」として話題になった計画は、約3年半を経て、ようやく営業投入へ向けた次の試験段階へ進もうとしている。

営業運転は2027年から順次始めることが現在の目標だ。なお10月の試験についても、現時点では予定であり、開始済みではない。

スペイン北部の山岳狭軌鉄道を想定した新型車の試験イメージAI生成によるイメージ。2026年に実施された実際の試験走行や実在する車両・トンネルを再現したものではありません。

笑い話より、鉄道の「古さ」と「規格」の衝突だった

「トンネルより大きな列車を注文した」。この一行だけなら、典型的な海外珍ニュースで終わる。

だが実態を追うと、CAFは製造前に問題を止めていた。しかも規則どおり小さく造れば、現役車より小さくなってしまう。そこで既存車両を基準に設計する比較法を採用し、制度まで変更した。

鉄道ファンの目で見ると面白いのはここだろう。100年以上かけて形作られた古い鉄道網では、「最新の規格に合わせればすべて解決」とはいかない。車両とインフラは、何十年にもわたって互いに折り合いながら成立しているからだ。

スペインの一件は確かに大きな失態だった。しかし本当のB面は、「列車を作ったら入らなかった」ことではない。最新型の列車を造ろうとしたことで、それまで現役車両が普通に走っていた古い鉄道網の矛盾まで見えてしまったことにある。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★★☆☆☆
社会的深刻度
★★★☆☆

【編集者が思うこと】

最初に聞いた時は、俺も「トンネルの大きさぐらい測れよ」と思った。でも掘ってみると、そこまで単純な話じゃないんだよな。規則どおり造ると、今走っている列車より小さくなる。それで結局、「じゃあ今ちゃんと走れている車両を基準にしよう」となる。

ここが妙なんだよ。鉄道って、最新技術の塊みたいに見えるけど、土台には100年前のトンネルや線形が平気で残っている。新車を入れようとした瞬間に、その古い歴史が「俺のこと忘れてないか?」と出てくる。しかも世界では「完成した列車がトンネルに入らなかった」みたいなイメージまで残った。事件そのものより、そっちの方がB面っぽいと思う。

参考資料