2026年、台湾の台北市立動物園で、動物が展示場の外へ出る事案が相次いだ。
5月18日はミナミコアリクイが折れたバナナの木を足掛かりにした可能性。7月4日はブラウンクモザルが水へ飛び込み、そのまま泳いで外へ。そして9月17日には、チンパンジー2頭が施錠が不十分だった扉を突破した。
妙なのは、同じ動物園で脱走が続いたこと以上に、毎回「出口」がまったく違うことである。木、水、そして最後は人間が閉め切れなかった扉。動物園側の公式発表や台湾メディアの報道をたどると、単なる「動物の珍脱走」では済まない構造が見えてくる。
AI生成によるイメージです。2026年に台北市立動物園で起きた3つの事案を概念的に整理したもので、実際の現場配置・個体・報道写真を再現したものではありません。
5月18日――バナナの木が「橋」になった可能性
最初の大きな事案は2026年5月18日。台北市立動物園のミナミコアリクイ「黒妞」が屋外展示場から姿を消した。
翌19日に異変へ気付いた園側が監視映像を確認すると、黒妞は18日午後6時15分ごろ屋外へ出て、その約40分後には来園者用通路脇の植栽付近まで移動していた。現場を調べた園側は、黒妞が登ったことでバナナの木が折れ、その倒木が隣の人工岩へ移る通路のようになった可能性があると説明した。
ここは「バナナの木を使って計画的に脱走した」と断定してはいけない。園側もあくまで現場状況からの推定としている。ただし、結果として動物のために植えられた植物が、展示場の境界を越えるルートになった可能性は残った。
園は5月19~20日の2日間だけでも延べ約65人を投入して捜索。自動撮影カメラや捕獲器も設置したが、なかなか見つからない。ところが7日後の5月25日、職員が園内道路を車で移動中、当の黒妞が道路を悠々と横切っているところを偶然発見した。回収後の検査では大きな外傷はなく、捕獲時には職員の手を引っかくほど体力も残っていた。
AI生成によるイメージです。脱走経路の構造を説明するための図像であり、実際の展示場や個体の姿を再現したものではありません。
実はその2日後、別のサルも外へ出ていた
さらに妙なのは、黒妞を捜索していた最中の5月20日である。
台北動物園自身の発表には、熱帯雨林区で飼育されている黒冠松鼠猴(リスザル)の家族も屋外展示場から一時的に外へ出て探索し、その後、自分たちで同じ経路を戻ったと記録されている。
つまり2026年を厳密に見るなら、「脱走事件は3回」と単純に数えるのも正確ではない。本稿では大きく報じられた5月、7月、9月の3事案を中心に扱うが、その裏では、別の動物による一時的な展示場外への移動まで起きていた。
7月4日――「水を怖がる」とされたクモザルが泳いだ
次は2026年7月4日。ブラウンクモザルの「Paco」が、他の3頭との追いかけ合いの中で展示場脇の水域へ飛び込み、対岸まで泳いで来園者用通路の方向へ移動した。
園によればPacoは群れの中で社会的順位が低く、この日は他個体との接触で緊張して走り回ったものとみられている。ただし園側は「いじめ」や「集団からの排除」が直接原因だったとはしていない。約2時間後、Pacoは子ども動物区の木の上で確保された。
ここで過去資料を読むと、さらに話がおかしくなる。台北動物園は2019年、このブラウンクモザルの雄グループを、その行動から台湾の俗語で悪ガキ集団を意味するような「屁孩集團」と紹介していた。
しかも同じ公式記事では、一緒に暮らすオオアリクイが水へ入ると、「水を怖がるブラウンクモザルは岸に残る」という趣旨の説明までしている。
そのブラウンクモザルの1頭が、2026年には水へ飛び込んで対岸まで泳ぎ、そのまま展示場外へ出た。
もちろん「水が絶対に越えられない防護設備として設計されていた」とまでは確認できない。しかし、動物の行動を過去の観察だけで固定的に考える危うさを象徴する出来事ではある。
AI生成によるイメージです。行動の意外性を説明するためのイメージであり、実際の現場・個体・報道写真を再現したものではありません。
9月17日――今度の出口は「人間」が残した
そして2026年9月17日午後4時55分ごろ、非洲動物区で44歳の雄チンパンジー「小強」と11歳の「娃智」が展示区域を離れた。
翌9月18日、園側は原因を説明した。飼育員用通路と屋外展示場の間にある扉には2種類の施錠機構があったが、片方だけが掛けられ、門栓が掛かっていなかった。2頭はその扉を押し開けて通路へ進んだ。
さらに先には、工事のため外部作業員が出入りしていた後方の扉があった。こちらも扉自体は閉まっていたものの施錠されていなかった。2頭はそこも突破して屋外へ出た。園側はこの件について、はっきり「人為的ミス」と認めている。
外へ出た後の行動も対照的だった。「小強」は雌のチンパンジー群がいる場所へ向かい、屋根付近に滞在。一方の「娃智」は長頸鹿展示場の餌を吊るす柱へ登り、長頸鹿を驚かせた後、ライオン区域付近の木へ移った。
園側は約50人を二手に分けて対応。「娃智」は麻酔吹き矢の1本目を自分で抜き、2本目でようやく麻酔された。2頭は回収後に検査を受け、大きな異常は確認されなかった。
AI生成によるイメージです。管理上の構造的な問題を説明するための図像であり、実際の施設配置・個体・報道写真を再現したものではありません。
3件を並べると「同じ脱走」ではなかった
ここまでを並べると、2026年の台北動物園で起きた主要3事案は、同じ設備の欠陥が繰り返されたわけではない。
5月は、自然に近い環境を作るための植栽が偶然ルートになった可能性。7月は、普段の観察から外れた動物の行動。9月は、人間側の施錠管理。
つまり、原因はそれぞれ違う。
現代の動物園では、昔のように動物を鉄格子の箱へ閉じ込めればよいわけではない。木を植え、水辺を作り、登ったり泳いだり探索したりできる環境を用意することは、動物福祉の面から重要になる。
実際、台北動物園は過去にも、開放的な飼育環境を整えるほど動物が人間の想定外の場所から突破するリスクも生じると説明している。2017年にはチンパンジー「莎莉」が低く垂れた枝を利用して展示場外へ出た事例もあり、その後、設備点検や安全確認が行われた。
自然に近づければ、木も水も動物にとって「設備」ではなく環境の一部になる。人間には柵に見えていても、動物には単なる足場や水路に見えるかもしれない。
ただし9月17日の件だけは、その議論とは分ける必要がある。自然環境と安全管理の難しいバランスではなく、園側自身が認めている通り、人間による施錠管理の問題だからだ。
木を利用したコアリクイ、水を越えたクモザル、そして最後は人間が閉め切れなかった扉。2026年の一連の出来事は、「動物が賢かった」で片付けるより、人間がどこまで動物の行動を予測できるのかという話として見る方が面白い。
【編集者が思うこと】
俺が妙だと思うのは、3回とも「また同じ穴から逃げました」じゃないところなんだよな。バナナの木、水、扉。毎回ルートが違う。しかも昔は「水を怖がる」と紹介されていたサルが、数年後には泳いで出ていく。
動物園というのは、人間が「ここから先には行かないだろう」と考えて作った世界なんだけど、動物にはその設計思想なんか関係ない。木があれば登るし、水だって必要なら泳ぐ。その意味では、動物側が悪いというより、人間の「たぶん大丈夫」が試され続けている場所なのかもしれない。
ただ、9月の施錠ミスだけは別だ。チンパンジーが扉を押すことまで責めるわけにはいかない。そこは人間の仕事だと思う。
参考資料
- 臺北市立動物園「香蕉樹竟成攀爬跳板 小食蟻獸『黑妞』不假外出 動物園籲請協尋」(2026年5月20日)
- 臺北市立動物園「小食蟻獸『黑妞』找到了 在環園道路上蹓躂被發現」(2026年5月25日)
- 中央通訊社「棕蜘蛛猴打鬧到跳水脫逃 北市動物園:非遭霸凌」(2026年7月4日)
- 臺北市立動物園「棕蜘蛛猴有『屁孩』行為~大食蟻獸姊姊沒在怕!」(2019年7月19日)
- 中央通訊社「台北市立動物園2隻黑猩猩脫逃 圍捕後均已帶回」(2026年9月17日)
- 中央通訊社「北市動物園2黑猩猩脫逃 園方:通道門未確實上鎖將檢討」(2026年9月18日)
- 臺北市立動物園「黑猩猩『莎莉』意外脫逃已自行回家」(2017年9月10日)
- 中央通訊社「動物脫逃預防演練勝於圍捕 北市動物園分享經驗」(2023年3月29日)