タイの運河にカワウソ20匹超、なぜ突然? 40年住む住民も初めて見た「2つの群れ」

タイ・バンコクのすぐ北にあるノンタブリー県で、ちょっと妙な光景が目撃された。

2026年10月5日午後3時ごろ、ムアンノンタブリー郡バーンクラン地区のバンコクノイ運河(Bangkok Noi Canal)で、大小あわせて20匹を超えるカワウソが泳ぎ、魚を捕っていたのである。

カワウソが1匹なら「かわいい」で終わる。3匹でも家族かな、で済む。ところが今回は20匹超。しかも沿岸に40年以上暮らす住民も、これほどの数は見たことがないという。


タイの都市近郊の運河で二つの群れに分かれて泳ぐカワウソのAI生成イメージ
AI生成によるイメージです。実際の現場、個体、報道写真の構図を再現したものではありません。

20匹が一つの群れだった……わけではなかった

現地紙「Khaosod」の報道で面白いのは、単に「20匹の大群がいた」とされているわけではない点だ。

カワウソたちは2つの群れに分かれ、運河の両側にいた。ときには双方が向き合い、衝突しそうな動きを見せる一方、その横では構わず魚を捕っている個体もいたという。

つまり「巨大なカワウソ一家が突然出現した」とは限らない。別々の群れが同じ場所で鉢合わせした可能性もある。

約2年前にもこの付近で3~4匹が確認されていたというから、カワウソ自体がまったく存在しなかった場所でもない。ただ、20匹を超える規模は地元住民にとって異例だった。

なぜ突然? まず気になるのは「水」

住民の一人は、上流から水が多く流れてくる時期になるとカワウソを見かけることがあり、今回も別の場所から来たのではないかと推測している。

実際、タイ王立灌漑局の10月5日午前8時のデータでは、チャオプラヤーダムからの放流量は毎秒2,500立方メートル。下流のバーンサイでも毎秒2,532立方メートルの流量が記録されていた。

ただし、ここは分けて考えたい。「水量の多い時期と出現が重なった」ことは確認できるが、「増水が20匹を運んできた」と証明されたわけではない。

カワウソはそもそも泳ぎの得意な動物だ。「流されてきた」というより、水位や流れの変化によって普段とは違う水路を移動した、魚を追ってきた、人目につく場所へ出てきた――そんな可能性も考えられる。


水量の変化に伴ってカワウソが水路を移動する可能性を表したAI生成の概念図
AI生成による概念イメージです。今回のカワウソが実際にたどった経路や、ノンタブリー周辺の実際の地形を示すものではありません。

実は「2群の縄張り争い」だった可能性も

タイには4種のカワウソが生息し、政府資料では都市部でも見られる種類としてコツメカワウソとビロードカワウソ(Smooth-coated otter)が挙げられている。ただし、今回目撃された個体については、現地報道で種まで確認されていない。

それでも興味深い比較材料がある。シンガポールのビロードカワウソを調べた研究では、群れは2~24匹で構成され、都市の運河や貯水池も利用する。さらに家族群同士が接触すると、鳴き声を上げたり追いかけたり、ときには実際に争う縄張り行動も確認されている。

今回も「2群が向かい合っていた」という点だけを見ると、似た状況を想像したくなる。

しかし、今回のカワウソがビロードカワウソだったとも、縄張り争いだったとも現時点では断定できない。ここから先は面白い仮説ではあるが、まだ仮説だ。

「カワウソがいる=水がきれいになった」とも限らない

タイ政府はカワウソを湿地環境の豊かさを示す動物として紹介している。今回も実際に魚を捕っているため、少なくとも餌になる生物が存在することは分かる。

ただ、「20匹も来たのだから水質が劇的に改善した」とまで話を広げるのは早い。少なくともビロードカワウソでは、自然環境だけでなく都市の水路や池などを利用することも確認されている。

必要なのは、魚がいること、水路が移動経路として使えること、身を隠したり休んだりできる環境があることなど、複数の条件だろう。

ちなみにタイで約20匹のカワウソが同時に確認されたこと自体は初めてではない。2020年には南部ラノーン県のバンリン運河でも、2群あわせて約20匹が魚を捕る姿が報じられている。

今回珍しいのは「タイ史上初の20匹」ではなく、首都圏に近いノンタブリーで、長年暮らす住民すら驚く規模の2群が突然目につく場所へ現れたことなのである。

かわいいから捕まえる? それは笑えない

動画で見るカワウソは確かにかわいい。しかしタイでは、カワウソ4種はいずれも保護野生動物に指定されている。

しかもタイの野生動物保護法でいう「狩猟」は、銃で撃つことだけではない。捕獲、罠、追い立て、誘い出しなども含まれる。

保護野生動物を違法に捕獲すれば、最長10年の拘禁、最高100万バーツの罰金、またはその両方。無許可で飼育・所持した場合も、最長5年の拘禁、最高50万バーツの罰金が定められている。

「20匹もいるんだから1匹くらい連れて帰っても……」は、到底通用しない。日本円に直せば為替次第で変わるものの、罰金だけでも数百万円規模になり得る。


タイの運河を泳ぐカワウソと捕獲禁止を表現したAI生成イメージ
AI生成による解説イメージです。実在する標識、保護官、当局の対応現場を再現したものではありません。

なお10月6日の報道時点では、20匹以上が現れた理由について、タイの野生動物当局や専門家による確定的な説明は出ていない。

「増水」「魚」「群れの移動」「別の群れとの接触」。材料はある。しかし原因はまだ決まっていない。それくらいの距離感で眺めるのが、今回のカワウソ騒動にはちょうどいい。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★☆
マヌケ度
☆☆☆☆☆
社会的深刻度
★☆☆☆☆

【編集者が思うこと】

20匹もカワウソが出てきたら、そりゃ見に行きたくなるよな。俺だって近所の川だったらカメラ持って行くと思う。

ただ、今回面白いのは「カワウソがいっぱいいてかわいい」だけじゃない。2つの群れが川の両側で向かい合っていたというところなんだよな。人間から見るとほのぼの動物ニュースなのに、カワウソ側では「お前ら、ここ誰の川だと思ってるんだ」だった可能性すらある。

しかも、その横で普通に魚を食っている奴までいる。このへんが妙に生々しい。

そして日本でカワウソといえば、水族館のコツメカワウソの印象が強いけれど、本来は立派な野生の肉食獣だ。かわいいから触りたい、飼ってみたい――そこから一気に「最長10年」が出てくるタイの法律との落差もすごい。

今回は原因不明のままでいいと思う。何でも「水がきれいになった証拠です」と美談にして終わらせるより、なぜ20匹もいたのか、まだ誰にも分からない。そのほうが、この運河の光景はずっと面白い。

参考資料