ベトナムで800本の“ヤラセ賭博動画”――8人組が売っていたのはイカサマ道具だった

2026年9月28日、ベトナム公安省刑事警察局とハイフォン市警察が、なんとも妙な事件を公表した。

ハイフォンを拠点とする8人組が、賭博の場面を演じた動画を大量に制作し、Facebookへ投稿していたという。その数は約800本。しかも単なる賭博動画ではない。出演者が役を決め、台本を作り、賭博をしているように見せ、その中へ「イカサマ用の道具」の広告を組み込んでいたのである。

つまり、賭博がヤラセで、広告だけが本気だった。

8人で役を決めて「賭場」を演じていた

公安当局によると、グループの中心人物は1987年生まれのファム・フイ・トゥエン。仲間7人と相談して役割を分担し、カードゲームやベトナムでよく知られる賭博「ソックディア(xóc đĩa)」をしているような動画を撮影していた。

ソックディアは、色の違う面を持つ小さな駒を皿に入れ、椀などで覆って振り、出た組み合わせを当てるタイプのゲームだ。映像にすれば「怪しい賭場」らしい雰囲気を作りやすい。

さらに現地報道によれば、出演者は刺青姿や“ギャング風”のキャラクターを演出し、視聴者の目を引く動画を作っていたという。

ヤラセ賭博動画の撮影現場を表現したAI生成イメージAI生成によるイメージであり、実際の現場・人物を再現したものではありません。

動画800本は、巨大な「通販CM」だった

動画の中で紹介されていたのは、コンタクトレンズ、加工されたカード、カード関連の財布型器具、振動機器、電子部品を組み込んだ器具など。公安当局は、これらをグループがSNS経由で仕入れていたとしている。

具体的な使用方法には触れないが、要するに「賭博を有利にできる」とうたう商品である。

9月29日の現地報道では、価格は商品によって約10万ドンから1,500万~1,600万ドン。売るために複数のFacebookページや個人アカウントが作られ、撮影した動画が次々と投入された。

ここで重要なのは、「800本の動画で広告収入を稼いだ事件」と確認されているわけではないことだ。公安省が説明している主目的は、動画に連絡先を載せ、イカサマ器具の購入客を集めることだった。

いわば動画そのものが商品ではない。800本全部が営業マンだったのである。

大量の賭博動画から商品販売へ視聴者を誘導する構造を表現したAI生成イメージAI生成によるイメージです。実在するSNS画面、商品、事件映像を再現したものではありません。

ファンページ名まで妙に凝っている

この事件がB面らしいのは、量だけではない。

現地紙Tiền Phongによると、トゥエン側は「Giang hồ bịp(イカサマ裏社会)」や「Tình người trên chiếu bạc(賭場の人情)」といった名前のページを運営。別のメンバーも「信頼できるイカサマ道具」「ハイテク道具」などを意味するページを複数作っていた。

そして日本から見ると、妙に引っかかる名前まである。

「Đồ bịp 7D nhập khẩu Nhật Bản」――直訳すれば「日本輸入7Dイカサマ道具」といった意味のファンページだ。

ただし、公安当局の発表からは、その商品が本当に日本製だったとは確認できない。公式説明では器具はSNS経由で購入されたとされているだけだ。つまり「日本輸入」が品質を高そうに見せるための看板だった可能性もあるが、そこは現段階では推測にとどめるべきだろう。

なぜ800本も作る必要があったのか

ここからは事件資料を基にした考察になる。

普通に商品写真を並べて「イカサマできます」と書くだけでは、そもそも客から見ればその商品自体が怪しい。そこで実際に大金が動いているような賭場を演じ、「この世界で使われている本物の道具」に見せる。そのための実演映像だった、と考えると構造が見えてくる。

しかも1本ではない。約800本を作り、複数ページから繰り返し流す。一部の動画は数百万回再生されたという。

これは昔ながらの「怪しい通販」が、SNS時代になって自前の連続ドラマまで持った姿とも言える。

商品の性能を証明するより先に、商品が必要になる「世界観」を作ってしまう。そこがこの事件の妙なところだ。

賭博動画を量産する小規模な映像制作現場を表現したAI生成イメージAI生成によるイメージであり、実際の撮影現場・人物・押収品を再現したものではありません。

捕まった理由も「賭博そのもの」だけではない

8人は2026年9月19日にハイフォン市警察によって緊急拘束され、9月28日に公安当局が事件を公表した。

捜査対象となったのは、ベトナム刑法でいう「コンピューターネットワーク・電気通信ネットワーク上の情報を違法に提供または使用する行為」に関するものだった。

さらに9月29日のTiền Phongは、8人全員について「khởi tố bị can」の手続きが行われたと報じている。これは特定の人物を被疑者として正式に刑事手続きの対象とする段階で、日本でいう検察官による「起訴」と単純に同一視することはできない。

つまり当局が問題視したのは、単に「賭博の真似をした」という一点ではない。違法行為や裏社会的な振る舞いを大量の動画として拡散し、その映像を客集めに利用していたというネット上の仕組み全体なのである。

公安省も、暴力や違法行為、いわゆる「ギャング風」の生活を美化する動画を、再生数や利益目的で投稿・拡散しないよう警告している。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★★★★☆
社会的深刻度
★★★☆☆

【編集者が思うこと】

800本ってところが、やっぱりおかしいんだよな。

数本撮って商品を売るなら分かる。でも800本である。役を決めて、台本を作って、強面を演じて、賭場を作って、撮って、Facebookへ上げ続ける。そこまで行くと、もう怪しい道具屋というより小さな映像制作会社である。

しかも売っているのは「相手を出し抜くための道具」なのに、それを買わせるために、まず客の方を映像で信用させなきゃいけない。騙す道具を売るには、自分が騙されない店だと思わせる必要がある。このねじれ具合が、実にB面っぽい。

それに「日本輸入7Dイカサマ道具」って何なんだ。日本人の俺からすると、そこが一番気になる。日本製かどうかも確認できないのに、とりあえず「日本」を付けるとハイテクっぽくなるのか。

ネット時代の犯罪って、機械が進化したというより、宣伝だけ妙にプロ化しているのかもしれないな。

参考資料