自分にケンカを売った羊!?――逃走3日、窓を破って事務所を荒らした「本物のラム・レイド」

2026年10月24日、ニュージーランド南島のクライストチャーチで、奇妙な建物侵入事件が発生した。

土曜日の午前10時前、1頭の雄羊(ram)がオフィスビルのガラス窓に突進。窓を破って建物内へ入り、会議室のテーブルを壊し、室内のガラス仕切りまで突き破ったのだ。

警察によると、この羊は約3日間逃走していたとみられる。現場には警察と市の動物管理担当者が駆けつけ、羊は保護された。

さらに施設の責任者は、驚くべき原因を推測している。

「ガラスに映った自分の姿を見て、攻撃したのではないか」というのだ。

つまり、もしこの推測が正しければ、自分に頭突きして窓を破り、他人の事務所まで荒らしたことになる。しかし、羊は本当に鏡の中の自分にケンカを売るのだろうか。

逃走3日目、羊が突入したのは福祉団体の事務所

被害を受けたのは、クライストチャーチ市アディントン地区、リンカーン・ロード334番地にある「Comcare Trust(コムケア・トラスト)」の事務所だ。

同団体は、精神的な健康問題や依存症を抱える人々への支援、住居支援などを行う非営利団体である。

現地紙Otago Daily Timesの10月27日付報道によると、羊は1階の窓から侵入し、会議室の家具や室内の仕切りを破損。ガラスが散乱し、床には羊の排泄物まで残されていた。


雄羊の侵入により外窓や室内のガラス仕切りが破損した事務所を示すAI生成の概念図
※報道内容を基にしたAI生成の概念図。実際の建物の間取りや破損状況を再現したものではありません。

警察は、羊が市内のエイダンフィールド地区方面から逃げてきた可能性があるとみている。ただし、正確な逃走経路は分かっていない。

幸い、事件当時は建物内に人がいなかった。しかも10月26日(月)はニュージーランドの祝日「労働者の日」。事件が起きたのは3連休の初日だった。

施設側は清掃と応急補修を行い、火曜日の職員復帰に備えた。被害には保険が適用されるという。市当局は羊を保護して飼い主を探していたが、その後の引き取り結果までは確認できていない。

羊は鏡の中の自分に頭突きする? 研究では6頭が攻撃的に接触

施設の最高責任者リンジー・ウェバー氏は、反射するガラスに映った自分を攻撃した可能性を指摘した。

そこで羊の認知研究を調べると、この推測と無関係ではない興味深い論文が見つかった。

2015年に学術誌『Animal Cognition』に掲載された研究では、3品種・計29頭の羊を対象に、鏡への反応や、鏡を使って餌の位置を把握できるかを調べている。

そして論文本文には、鏡への反応を観察する過程で、6頭が頭突きや体当たりによって鏡に攻撃的な接触をしたという記録がある。


鏡に映った自分の姿へ頭部を近づける雄羊を描いたAI生成の動物認知研究イメージ
※羊の鏡像への反応を説明するAI生成イメージ。実際の実験写真ではなく、自己認識や攻撃の動機を証明するものではありません。

ただし、研究者は羊が鏡像を自分自身と認識できると証明したわけではない。鏡への慣れが、鏡を利用した餌探しの成績を明確に改善したとも確認できなかった。

つまり「羊が鏡に頭突きする」ことには実験上の裏付けがある。しかし、今回の羊が自分の姿を敵と誤認したとまでは断定できない。

窓の向こうへ逃げようとした可能性や、最初の衝突後に音や警報で混乱した可能性も残る。施設責任者自身、羊が怖い思いをしたのではないかと気遣っていた。

実は前例があった! ニュージーランドの「羊侵入事件」

さらに過去の報道を調べると、羊が建物へ突入する珍事件は今回が初めてではなかった。

発生時期・場所 羊が起こした騒動
2022年5月
オークランド
逃走した羊が店舗のガラスに繰り返し頭突き。3回目でガラスが破損したと報じられた。
2024年4月
テ・クイティ
羊のイベント中、14頭が酒屋に迷い込み、従業員用の休憩室に約40分間滞在した。
2026年10月
クライストチャーチ
雄羊1頭が窓を破って侵入。室内の家具やガラス仕切りまで破損した。

2024年の酒屋侵入事件については、地元ワイトモ地区議会の市長報告書にも、羊がLiquorlandに寄り道したことが記録されている。

3件を比較すると、今回の特徴は窓の破壊だけで終わらず、建物内部でも被害が続いたことにある。羊の突進がガラス破損につながる可能性は、過去の事例からも確認できる。

車じゃない、本物の「ラム」がラム・レイドした

そもそもニュージーランドで使われる「ram raid(ラム・レイド)」とは、車を店舗などに突入させて侵入する強盗・窃盗の手口を指す。

ニュージーランド警察の公式説明でも、車両を使って建物へ侵入する犯罪行為と定義されている。

ところが英語の「ram」には、雄羊という意味もある。さらに動詞では、激しく突く、ぶつけるという意味も持つ。

今回は車も窃盗犯も登場しない。本物の雄羊が自分の体で建物に突っ込んだため、現地メディアが「ram raid」と呼んだわけだ。もちろん、羊が実際に強盗罪で逮捕されたという話ではない。

結局、事件の原因は確定していない。それでも、鏡に頭突きする羊の行動は研究で確認されており、過去にも同様の窓ガラス破壊事件が起きている。

単なる言葉遊びのようなニュースだが、調べてみると、羊の行動を考える材料が意外なほど残されていた。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★★★★★
社会的深刻度
★★☆☆☆

【編集者が思うこと】

車が店に突っ込む事件なら、防犯ポールを立てるなどの対策も考えられる。ところが、羊がガラスに映った自分へ頭突きすることまで想定しろと言われたら、建物の設計者も困るよな。

それにしても、もし反射説が本当なら、自分とケンカして相手の事務所まで壊してしまったことになる。なんとも間抜けな話だ。

ただ、割れたガラスや警報音に羊自身も相当驚いたはず。人がいない休日だったことが救いだろう。笑える珍事件ではあるけれど、羊にとっては災難だったのかもしれない。

参考資料