居場所は分かった。なのに捕まらない!――英国カピバラ「サンバ」、7か月逃亡の謎

2026年10月27日、英国ハンプシャー州のマーウェル動物園(Marwell Zoo)が、7か月以上逃亡しているカピバラの最新写真を公開した。

名前は「サンバ(Samba)」。南米原産の大型げっ歯類、カピバラの雌である。

捜索には熱探知ドローン、追跡犬、監視カメラ、20人以上のスタッフまで投入された。それでも捕まらない。しかも、捜索用カメラが盗まれるという余計な騒動まで起きていた。

さらに奇妙なのは、動物園がすでにサンバのいる区域を把握しているのに、依然として捕獲できていないことだ。

一体なぜなのか。動物園の公式記録と過去の類似事件を突き合わせると、意外な事情が見えてきた。

到着翌日に脱走。姉妹で明暗が分かれた

事件の始まりは2026年3月17日。サンバは前日の16日、姉妹のタンゴ(Tango)とともに、英国サフォーク州の施設からマーウェル動物園へやって来たばかりだった。

当時、2匹は生後約9か月。健康確認などのため、仮設の飼育エリアに収容されていた。

ところが翌日、2匹とも脱走。タンゴは園内の茂みに隠れていたところを回収されたが、サンバは園外へ逃げ出した。動物園側は、低い門扉の下の隙間を抜けた可能性があるとみている。

3月22日には、近くを流れるイチェン川(River Itchen)の岸辺で姿が動画撮影された。翌23日には動物園の最高責任者も茂みの中で目撃したが、捕獲には至らなかった。

目撃情報150件超。その大半は「シカ」だった

動物園の公式記録によると、5月8日までに調査した目撃情報は150件以上。ところが、その大半はキョン(muntjac deer)と呼ばれる小型のシカだったという。

キョンは英国にも生息する外来のシカで、茶色い体毛と体格が、若いカピバラに似て見える場合がある。

英国の草むらに立つキョンを想定したイラスト。体の一部が草に隠れている。
キョンをイメージしたAI生成イラスト。実際の目撃画像ではありません。

ちなみに、キョンの目撃と判定された具体的な件数は公表されていない。「150件がすべて誤認だった」という意味ではない。

捜索活動も大掛かりだった。5月には監視カメラを10台追加。6月5日には20人以上が現地を捜索し、足跡や糞などを探した。6月29日には熱探知ドローンによる捜索も行われたが、その日は発見できなかった。

おまけに4月には設置していた監視カメラ2台が盗まれたと動物園が公表している。

カピバラを探していたら、目撃されたのはシカばかり。さらに、捜索する側の機材まで持ち去られる。なんとも締まらない展開である。

熱探知ドローンでも、茂みの中は見通せない

そもそも、なぜ最新の捜索機器を使っても見つけにくいのか。

熱探知ドローンは、動物の体温と周囲の温度差を検出する。しかし、森林内の動物探査についての2023年の研究では、樹木の葉などに地表が遮られるほど、動物の発見が難しくなると報告されている。

つまり、熱探知カメラは暗闇に強くても、密集した植物を自由に透視できるわけではない。ただし、今回の捜索で発見できなかった原因が、すべて植生によるものと確定したわけではない。

川沿いの樹木と茂みに隠れるカピバラ、上空を飛ぶドローンを描いた解説イラスト。
植物が捜索の障害になる状況を描いたAI生成イメージ。実際の捜索現場ではありません。

加えてカピバラは水泳が得意だ。サンディエゴ動物園の解説では、危険を避けるため最大約5分間潜水できる。目や鼻、耳が頭の上側にあり、体の大部分を水面下に隠すこともできる。

もっとも、サンバ自身が捜索中に5分間潜ったという証拠はない。こうした生態的特徴と川沿いの濃い植生が、捜索を難しくしていると考えられる。

過去の英国事件と比較すると、逃亡期間は32倍

実は英国では、2024年にも別のカピバラが脱走していた。

シュロップシャー州のHoo Zooから逃げ出した雌の「シナモン(Cinnamon)」である。

こちらもドローンを使って捜索した。9月17日には園から約200mの場所で発見され、18日にも確認されたが、すぐには捕獲できなかった。最終的に9月20日、池で回収されている。

比較項目 シナモン サンバ
発生年 2024年 2026年
脱走日 9月13日 3月17日
ドローン捜索 あり あり
経過日数 7日で回収 224日でも未回収

※各動物園の公式記録を基に編集部で比較。サンバの224日は2026年10月27日時点。英国の最長逃亡記録を示すものではない。

両者の期間を計算すると、224÷7=32倍。異なる個体と環境のため能力比較はできないが、長期化の程度は際立っている。

興味深いのは、シナモンの事件でも、発見後にストレスを与えないよう捕獲作業を一時中断していたことだ。動物園側は、追い立てることで隣接する英国国防省の土地へ逃げ込む可能性も懸念していた。

つまり、動物を「見つける技術」と「安全に連れ戻す技術」は別物なのである。

居場所が分かったのに、なぜ捕まえない?

サンバについては8月11日に一般人から写真が寄せられ、10月にも設置カメラで撮影された。10月27日の公式発表では、現在いる区域を把握していると明らかにしている。

それでも動物園が強引な捕獲を避けるのは、驚かせれば別の場所へ逃げ、再び捜索が難しくなる恐れがあるからだ。

現在は私有地に給餌場所を設け、サンバが定期的に戻るよう慣れさせている。正確な所在地は、捜索を妨げないため非公開だ。

多人数で一斉に追い込むより、安心して餌を食べに来る習慣を作る。遠回りに見えても、これが安全な回収への近道なのだろう。

7か月逃げ切ったサンバに、英国の冬が迫る

もう一つ気になるのが寒さだ。カピバラの原産地は南米。英国南部の冬を、野外で過ごせるのだろうか。

米国動物園水族館協会(AZA)の2021年版飼育マニュアルでは、最低気温が約4℃になる地域でも、暖房付きの避難場所と寝床があれば屋外飼育できると説明されている。

一方、英国気象庁の1991~2020年平年値では、近隣のサウサンプトンにおける1月の平均最低気温は約3.2℃。日最低気温が0℃未満となる日も、1月に平均6.65日ある。

ただし、4℃は生死を分ける温度ではなく、暖房設備を前提とした飼育条件である。また、サウサンプトンの数値はサンバのいる場所の実測気温でもない。

したがって、サンバが英国の冬を越せるかどうかは、公開資料だけでは判断できない。7か月の逃亡に成功したからといって、真冬も安全とは限らない。

ちなみに、残された姉妹のタンゴには7月、新たな仲間として雄のカピバラ「リップル(Ripple)」が迎えられた。動物園は、これはタンゴの福祉を守るためで、サンバの捜索を諦めたわけではないと説明している。

10月27日時点でサンバの帰還は実現していない。英国の冬が深まる前に、無事に保護されることを願いたい。

B面メーター
地球のB面・編集部判定
B面度
★★★★★
マヌケ度
★★★★☆
社会的深刻度
★☆☆☆☆

【編集者が思うこと】

熱探知ドローンまで使ってカピバラ1匹を捕まえられないというのも妙だが、個人的には「居場所が分かっても捕まえない」というところが一番引っかかった。

考えてみれば、機械は動物を発見できても、その動物に「ちょっと動物園へ帰ってくれ」と説得することはできない。しかも、昔の英国の脱走事件でも同じ問題が起きていた。

これだけ技術が進歩しても、最後はカピバラの気分次第というわけか。なんだか人間の方が振り回されているようで、ちょっと可笑しい。

参考資料